墨すみ
中国・朝鮮・日本など東アジアで古くから筆記材料として使われてきた墨は、数千年の風雪に耐える記録材料として、歴史を語り伝えて今日に至っています。 製墨については、推古天皇一八(610)年に高麗の僧、曇徴が墨造りを伝えたとの『日本書紀』の記載より古い史料は見当たりません。ともあれ朝廷の置かれた明日香で墨造りが始まり、なかんずく宮廷に造墨手が置かれて、本格的に生産されるようになりました。
政治の中心はやがて明日香から奈良へ、奈良から京都へと移ります。墨造りは遷都とともに奈良で行われるようになったに違いありません。ところが都が京都へ移ってからも、奈良にたくさんの社寺が残り、学問の中心として栄えたため、墨造りの技はここに留まりました。以来一千年余、伝統産業として全国需要の90%がここ奈良で造られています。
墨の原料
煤 | 煤には大きく分けると油煙と松煙の2種類があります。油煙は植物油を燃やして作ったもの、松煙は松の木とその樹脂を燃やして作ったものです。煤の種類によって墨の良否が左右されます。 |
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膠 | 膠は牛、馬などの動物の皮や骨を煮込んで得られるゼリー状のもののことです。膠には墨の形に整える役割と、墨を磨りおろした液に適度な粘りを与え、運筆をよくする役割、紙に煤を定着させるという役割を持っています。 |
香料 | 膠の持つ臭いを和らげ、心を落ち着かせます。龍脳や麝香(じゃこう)が代表的な香料です。 |
墨の木型
墨はやわらかい墨の玉を木型に入れて、形を造ります。煤、膠、香料を練りこんだ墨の玉は多くの水分を含んでいるので、ある程度の水分を吸っても寸法に狂いが生じないほどに固く彫刻しやすい梨材が伝統的に木型として選ばれています。
墨の大きさ
墨の大きさは1丁型、2丁型と示します。
1丁型が15gとなっており、墨の大きさの基準となっています。
墨の製造工程
墨は現在でも1丁1丁職人の手により丁寧に造られています。