日本の美しい文字が書けるペンの開発
墨と筆記具を結びつけるということであれば、筆という発想が自然に生まれてきます。そして、それは筆文字を書くことができるペンにほかなりません。しかし、このような筆記具は1972年に「ふでぺん」という商品名で他社より発売されていました。ですが、この商品を実見した技術陣の目には、合成繊維を固めた筆先に問題があるように映ったのです。「これでは書いているうちに筆先にバラツキが生じるのではないだろうか・・・」。筆先に注目したのは、そこに筆文字が可能となるペンづくりのポイントがあるからでした。
技術陣が目指していたのは筆圧の強弱によって太い文字、あるいは細い文字が自在に書けるペンであり、トメやハネ、ハライなど書に必要な基本的な筆の運びと表現ができるペンでした。そうでなけば、日本の美しい文字が書けるペンになりえなからです。ですが、そうした条件を満たすようなペン先の開発は容易ではありませんでした。
ペン先が軟らかいと太い線しか書けません。逆に硬いとサインペンと同じような細い線しか書けません。これを同じペン先で書けるようにしなければなりませんでした。また、インキをペン先までスムーズに流す工夫も必要でした。
ペン先の材質や形状にさまざまな検討を加え、試作を繰り返していた1973年のある日、ナイロン製の芯の射出成型時にスパイラル状のねじりを加えると、これまでの課題が一気に解決することがわかりました。
つまり、筆圧をゆっくりとかけるとナイロン芯のねじれた部分が開き、そこヘインキが十分に供給されて太い文字を書くことができます。筆圧をかけない状態であれば ナイロン芯のねじった部分が絞り込まれるようにして閉じます。そうするとインキの供給は抑えられ、細い文字が書けるのでした。
しかし、ねじりを加えたことによって別の問題が生じました。芯先にはインキを通すスリットがあったのですが、そのスリットがねじりを加えることによって開きインキを保持できなくなってしまいました。
つまりインキが芯先から漏れ落ちてしまうのです。さらにペン先を上にして、立てて店頭に陳列すると、ペン先からインキが軸に戻ってしまい、書き出しにインキがかすれてしまいます。これでは店頭で売ることができません。ほとんど完成していた筆ぺんでしたが、またしてもここにきて壁にぶつかりました。そんなときに目にしたのが万年筆だったのです。
万年筆はインキを入れて販売していませんでした。「これだ」と感じました。インキをあらかじめペンに入れておくのではなく、インキつぼとセットで販売してはどうだろうか・・・。ペン軸から中綿のインキシンクを尾栓とともに抜き、インキつぼにインキタンクを付けインキをしみこませます。
あとはインタンクをペン軸にセットしインキが染み出てくるのを待ちます。「この形態ならば販売できる」いつも助言をいただいていた書道家の先生にも合格をいただき、「筆ぺん」は1973年(昭和48年)に完成、発売となりました。商品名は、そのままズバリの「くれ竹筆ぺん」。「ぺん」をひらがなにしたのは毛筆文字、和文字で表現したかったからである。キャッチコピーは「筆跡はズバリ毛筆」「毛筆の苦手な人に手軽に筆文字が書けるぺん」でした。