「鬼月」 高資婷さん
高資婷さん『鬼月』 2点撮影:大河原 光
高:
今回の作品は、鬼月をテーマにしています。台湾の旧暦7月は鬼月と呼ばれていて、日本のお盆に似ています。旧暦7月1日の鬼門が開く日から、旧暦7月30日の鬼門が閉まる日まで、先祖や霊といった亡くなった人があの世からこの世に戻ってくる期間とされています。
それぞれの絹本(※2)に、鬼門が開く日と閉まる日を描いています。鬼門が開く日が描かれている赤いチャイナドレスを着ている女の子は、あの世から戻ってきて何も食べておらずお腹が空いているので、長く細く描いていて、周りの骸骨も恐ろしい風貌をしています。
亡くなった人はあの世で食べることが出来ないので、鬼月にこの世に戻ってきて、旧暦7月15日の中元節という線香や食べ物を用意して亡くなった人を供養する日にお供え物を食べて、鬼門が閉まる日にあの世に戻ります。

鬼門が開いたばかりの骸骨はおどろおどろしい印象を受ける。

鬼門が閉じる間際の骸骨は満足している様子がうかがえる。
2点撮影:大河原 光
高:
最初の赤は燃えているような感じで、中元節を過ぎてだんだん落ち着いている様子は青くして、骸骨も赤い面では大きくおどろおどろしいですが、青い面ではあの世で使うお金などをもらって、満足してあの世に帰る様子を、骸骨自体を小さく描くことで表しています。
あの世で使うお金があるのですが見られますか?

実際に中元節で使われているお金や線香などのアイテム。制作の際に参考にするため現物を台湾から持ってきたとのこと。
白石:
見たいです!この世でお金をもらって帰っていくのですか。
高:
そうです!亡くなった家族に渡したいときは、亡くなった人の名前を書いて燃やします。家族がいない霊にあげたいときは、名前を書かずに燃やしてあげます。旧暦の7月だったら、台湾に行けばお寺とか家の前でみんな燃やしています。昔は旧暦7月15日の中元節にしかこの風習は行わなかったのですが、今はみんな忙しくなってきたので、鬼月の間はいつでも燃やして大丈夫、ということになっています。
こういった台湾の文化をテーマにして描いています。背中合わせになっている絹本の間に茶色の糸をひいているのですが、これもそうです。
撮影:大河原 光
高:
台湾のお線香はすごく長いので、それを糸で表現しています。また、糸は中国語では「セン」といいます。糸(セン)と線(セン)香、読みが同じなんですね。 鬼月の始まりの日と終わりの日を、中元節を表す糸でつなぐことによって作品全体で1か月間を表現しています。
お線香を使ってお祈りする時は自分の思いを込め、思いを煙にして伝える。だから、鬼月に行う風習のほとんどは中元節にこだわらず行うようになりましたがお線香はだいたいみんな旧暦15日の中元節に自分の家で焚きます。私の誕生日もちょうどこの日、旧暦の7月15日なんです。
白石:
なるほど、自分の誕生日と中元節が同じだから、繋がりを感じてテーマにしたんですね。
高:
そうです。それから昔の台湾の日本画は、幽霊の絵があまりないんです。日本は幽霊画が多くあるのですが、台湾はあまりなく、描き方も厚塗りです。自分の大学での研究テーマも「台湾の東洋画を再考する」というものだったので、日本の芸術と台湾の文化を取り入れ融合して自分の作品を制作しています。
絹本(※2):
絹地に描いた書画や、それに使用する布地の事を指す。